1月5日の日記

2011年1月5日 日常
昨日は、アカデミーの友人と一緒に村上隆氏の個展を見に行った。

付いて来た友人は、『私が氏の展示会にこだわっているから・・・』と言っていたが、展示されている作品はたった2点のみ。ローマの展覧会のために筆を振るった作品だそうだが、横18メートル、高さ3メートルの巨大なカンバスに描かれた赤とインディゴブルーの深青色の龍の絵の2枚だった。

ルイ・ヴィトンに関する作品も含めた多様な作品が列挙されたパリの展示会を期待していた私にとってはかなりがっかりだったが、契約上の問題もあるのか、致し方ない。

ただ、一日経ってみて、この作品を一瞥できたことは私にとってはかなり有益なことだったと氏の展示会に感謝している。

一緒に付いて来た友人は同じクラスで恐らく一番の成績をとっていると思うけれど、ベラルーシ人の彼女は私が感じている感動は抱いてなさそうだった。
やはり、自分が日本人だからこそ氏の活動に注目し、その重要性に気づけるのか否かよく分からないけれど、いずれにせよ、今なんとなくすがすがしい気分になっているのだ。
9月から煩っていた悲観的な落ち込んだ、低空飛行だった自分の気持ちに、氏の作品を見、活動を推測することで、光が差し込んできたような気がしている。



ギャラリーの受付に置かれていた一枚のパンフレット。
氏の絵の特徴=「Superflat」と訳されているが、この言葉に私は感動したのだ。
日本画や浮世絵の2次元的な特徴。西洋の絵は遠近法や陰影テクニックを使い3次元的な立体感を出す特徴。日本の絵は「Superflat」で、これに後期印象派の画家達が熱狂的になったのだ。なぜならば、そういう、いわゆる見る人の『目をごまかす』技法を使った絵の描き方に行き詰まりを彼らが感じていたから。




氏は東京芸大で日本画で日本で初めてPhDを取得し、日本美術の琳派の影響を受けてもいるそうだ。
一方、1867年のパリ万国博覧会(パリで開催された国際博覧会では2回目。日本が初めて参加した国際博覧会であり、江戸幕府、薩摩藩、佐賀藩がそれぞれ出展した。)以来フランスを中心に起こったジャポニスムに影響を与えたものの一つは琳派だった。

19世紀後半から写真機の登場に伴い、画家の収入源であった肖像画などにも見られる写実主義が衰え、画家達が自分の絵の方向性を模索していた時代でもあった。
印象主義を経て抽象主義などのモダニズムに至る変革が起きた際、この変革の最初の段階で決定的に作用を及ぼしたのがジャポニスムであったと考えられている。
ジャポニスムは単なる流行にとどまらず、それ以降1世紀近く続いた世界的な芸術運動の発端となった。
なお、ルイ・ヴィトンのダミエキャンバスやモノグラム・キャンバスも当時のゴシック趣味、アール・ヌーヴォーの影響のほか、市松模様や家紋の影響もかかわっているようだ。

高級ブランドの老舗、ヴィトンが古いものばかりではなく、新しいデザインへの刷新としてアメリカ人チーフデザイナー、マーク・ジェイコブ氏が日本美術・漫画・アニメ・オタク文化・鮮やか色彩の融合した村上氏の作品にインスピレーションを受け、ヴィトンのイメージキャラクターやイメージビデオの製作まで依頼することになったわけだが、その背景に、1867まで遡ったパリ万博に繋がっていると感じるのは私独りだけだろうか。何か、単なる偶然ではない、現代のジャポニズムとというか、過去のジャポニズムの現代版のパリへの再到来というか、必然のような気さえしてしまう。

芸術のげの意味も分からない者が物申すことも恥ずかしいが、1800年代後半、後期印象派の画家達が日本画や浮世絵を見て非常に感化された時の感動を、イタリア在14年になる自分が今村上氏の絵を見て感じていることと、『ああ、この感動だったのか。。。』と勝手に重ね合わせて考えている自分がいる。

最近、写真家の荒木氏の写真がこちらの『アート』という雑誌の表紙を飾っていたのだが、そのバックナンバーに村上氏の作品も表紙を飾っており、タイトルが、『芸術で金儲けする方法』だった。どうやら芸術での世界戦略法などの著書もあるのだそうだが、是非読んでみたい。

10年前、イタリアで日本の話をすると、すぐ『金』だった。

でも、今は円が強いとかいう話だけはなく、日本の文化や伝統美を世界に伝える好機になってきているような気がする。

お金があるだけでは評価されない・・・というのがこちらに住んでの感想なのだが、では自分は何なのだ?という事をきちんと伝えられるような自分になっていなければならないと思う。

そう考えていくと、将来にかなり悲観的になっていた憂鬱な気分が晴れて行って、今置かれている立場で頑張ろうという前向きな気持ちが湧き上がって来た。




1月15日までの展示だが、もう一度、氏の龍を見に行きたい。



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